2022.06.01
#アントレターン #長期実戦型インターンシップ #大学生 #受け入れ企業
株式会社青木光悦堂・森 聡明さんインタビュー
2001年に東大阪でスタートした子ども向けの起業家教育(アントレプレナーシップ)教室。これがNPO法人JAEのはじまりです。その後、小・中・高校でのキャリア教育プログラム「ドリカムスクール」や、大学生を対象とした長期実践型インターンシップ「アントレターン」などを開発・実践。数多くの子ども・若者が未来を描くお手伝いをしてきました。
今回は2021年7月期のアントレターンで大学生の受け入れ企業として参画いただいた、株式会社青木光悦堂の担当者・森聡明さんのインタビューです。
京都でお菓子の卸販売を行っている青木光悦堂。現在では高齢者施設へのお菓子の宅配業務など、お菓子を主軸にさまざまな新規事業を展開されています。JAEを通じたインターン生の受け入れは今回で3度目。担当者の森さんに話を伺いました。
▲リモート取材にご協力いただきました!
―はじめに御社についてと森さんの業務について教えていただけますか
弊社は明治25年に創業し、お菓子の卸販売をしております。現在は卸に加え、高齢者施設向け菓子デリバリー事業『カシデリ』、一般の方向けのネットショッピング、この3つの事業をしています。私は『カシデリ』の責任者をしており、今回インターン生として大学3回生の酒井桃華さんを受け入れました。新たな事業展開を予定しているサービスのブラッシュアップに取り組んで頂きました。
―インターン生の受け入れに対してどのような印象をお持ちでしたか
弊社は過去に2度アントレターンに参画し、インターン生を受け入れています。1人目のインターン生は、その後アルバイト期間を経て正社員として入社。今はバリバリと営業課で働いてくれているんですね。2人目もその時の経験を生かして別の企業で正社員として働いていると聞いています。そういう経緯を見てきたので「よしきたな。チャンスが巡ってきたな」という風に思いました。
―すごく前向きに捉えてくださっていたんですね。どのような期待がありましたか?
現在事業を進める中核メンバーは30〜40代が多く、斬新なアイデアが出てこないなという課題があって。この機会に若い方の感性とふれあえるきっかけになればと考えました。さらには、今後私たちが新卒者を雇用した時に力になるであろうという想像も容易にできました。
―実際の受け入れに向けて、森さん自身の課題などはありましたか
私は今課長というポジションなんですが、部下が困っているときにはどうしてもすぐ手助けしてしまってたんです。今回、社長から私に課せられたミッションは「直接インターン生と接することなく、部下が接して成果を上げていく」ことでした。この7か月間で上司として成長してほしいというミッションを与えられたんです。
―ちなみに、森さんの部下は何名いらっしゃるんですか
直属の部下は3名いまして、その中でも10年以上一緒に働いている樋口という部下に担当を任せました。彼女に指示を出したり相談を受けたりしながら、酒井さんが成果を上げられるように、という流れにしました。
▲森さん(左)と樋口さん。受け入れ前から何度も打ち合わせを重ねました
―森さん自身が上司として今までと違った手法を模索することになったんですね
そうですね。「任せるマネジメント」を考えるきっかけとなりました。ですので、受け入れ前から私自身にも緊張感がありました。樋口が主体的に考えた案に対して、アドバイスを出す。その後、社長に報告するという流れを組み上げていくのがはじめは難しかったですね。以前から社内でマネジメントの勉強はさせてもらっていたので、現状に合わせて試行錯誤していきました。
また、私自身の息子が今15歳でインターン生に近い年齢なので、いろいろ質問していましたね(笑)。どうやったら伝わる?とか普段学校の先生からどんな言葉をもらったらモチベーション上がる?とか。
―では酒井さんは具体的にどういう業務を担っていたのでしょう
『カシデリ』事業の中の「おやつレクリエーションの開発」です。12か月分のおやつレクリエーション開発を担当していただきました。
―おやつレクリエーションの例をひとつ教えて頂いてもいいですか?
例えばカステラを半分に切って、あんこをはさんでカステラサンドを作りましょう、という商品がおやつレクリエーションです。その過程で高齢者が手を使い、どのように挟むか考えるので、認知症の予防にもつながります。
―開発に向けて、酒井さんはどのような取り組みをされましたか
はじめはレポートを作成してもらいました。「高齢者施設におけるレクリエーションの役割」や「高齢者施設に関わることを知る」などテーマを提示し、自分なりに調べてレポートにまとめてもらったんです。その後も「お菓子のジャンルを知る」「高齢者施設の課題を知る」など、レポートの作成を通じて知識を深めてもらいました。
これらのカリキュラム作成は私が担当し、実際の稼働に向けて樋口とブラッシュアップしていきました。樋口もインターン生と深く関わることがはじめてでしたので、第1期のインターン受け入れ時の資料を全部読みこんで、そこから酒井さんにどう活かしていくかという勉強会もしました。
▲写真左が酒井さん。社外体験学習の一環として関西地域文化フェアにてお菓子を販売。先輩社員から取りやすい並べ方や接客などを学ぶ機会になりました。
―受け入れの難しさや苦労、やりがいを教えて頂けますか?
学業と並行して取り組んでくれているのを忘れて、つい日頃の社員と同様の業務量とペースを酒井さんに課してしまう、ということがありました。すごくモチベーションが高いので「やります!」と言ってくれるのですが、期日に間に合わなかったことも。その時の本人の心情をしっかりとケアできなかったということがありました。
―さじ加減が難しいですね
学ぶために来られている以上、私たちにもその責任があります。過保護に接しすぎても得られるものが限られますし。酒井さん自身が課題に気づき、解決していけるようナビゲートする形を模索し続けました。ほぼ毎日のように終業後に樋口が酒井さんの様子を確認していましたね。
樋口の指導で非常に良かった例の1つが、帰る際には他の社員のところをまわって「今日1日ありがとうございました」と一言二言絶対にコミュニケーションを取りなさい、ということを酒井さんに課してくれたこと。その回数が増えるにつれ、他の社員やパートさんとも仲良くなっていくのがものすごく早かったですね。
―それはインターン生にとって心強いですね。JAEのサポートについてはいかがでしたか
まず毎月の3者面談が良かったです。JAEの坂野さん、インターン生と私たちの面談の中で、お互いの意見や思いを共有できる時間で。この面談によって酒井さんも深く考え、発言する習慣が身についたと思います。
また、インターンを導入する前の面談システムも非常に良かったです。堅苦しくなく、候補の学生さんたちの内面がわかるような面談で。会社として必要な役割とインターン生が求めていることを合致させた状態でスタートできました。
それから、中盤で少しうまく進まなかった頃に、酒井さんの困りごとを私たちに忖度なしに伝えてくださったんです。その時、ちゃんと仕切り直さないと成果を掴めないぞということに気づかされました。「青木光悦堂さんとして(学生に対して)どういうサポートをお考えになられていますか?」ということと同時に「JAEに求めるサポートは何ですか」と相互関係を構築してくださった。そこにとにかく感動して。お互い一緒の方向を向いて学生を育てていくということをすごく実体験できたんです。
―そのあたり、外部の視点や学生の率直な意見が聞けるというのは違いますか?
部署の中でも状況を共有し、相談もしていましたが、やはり全然違いますね。そのサポート後、私たちも酒井さんの本音を聞こうと面談をしたんです。そこで初めて「しんどい」という気持ちを出してくれたんですね。酒井さんは何事にも全力で取り組んでくれていたんですが、本当は少し負担が大きかった。でも仕事だからきついと言ってはいけない、という思いが強くて。そこで「いやいや私たちも仕事の中でめちゃめちゃしんどいって言ってるよ〜」って(笑)。その面談以降、取り組むスピードが上がった感じです。
―この半年間での成果、具体的にどういうものがありましたか
成果物としては12か月分以上のおやつレクリエーションを開発してくれました。これが物的な成果ですが、会社や組織としては今後Z世代の方とどのように相互理解の状況を作っていくのか、が体系的に手に入ったことですね。
酒井さんはすごく積極的な分、どうしても完璧を求めすぎるところがあって。60点でもいいからまず提出してみてと伝えたんです。最後に「あの言葉があったから進めることができた」「自分に自信が持てるようになった」と言ってくれたのが非常に嬉しかったです。もちろん仕事なので完璧を求めるんですけども、次70点にしよう、80点にしようと一緒になってブラッシュアップしていける。いわゆる新しい形のマネジメントというのが手に入れられたなと実感しています。
―酒井さんが考えたおやつレクリエーションは実際に活用されるんですか?
はい。もうすでに2か月分は販売し、実際の売上も出ています。酒井さんにも報告しました。今後は事業として利益が上がるよう、酒井さんが作成してくれたものをベースに仕上げていきます。
▲酒井さんが開発した節分のおやつレクリエーション。季節を感じられることも大事な要素
―森さん自身のミッションについてはどうでしたか?
期間中もっとこうすれば…と口を挟みたくなるシーンがありましたが、それをぐっとこらえるのがはじめは大変でした。身近な人を信頼してどのように任せるか、という進め方をすごく理解できました。部下を今までよりもっと信用できるようになりましたし、任せたことで部下が成長し課題をクリアできた、という経験を得られたことがすごく良かったですね。
―樋口さんにも変化はありましたか
もともと樋口は器用に業務をこなせる人材でした。ただ、器用がゆえに感覚で上手くいってた部分もありました。今回、全く違う世代の人に対してのマネジメントを体験して「こんなとき森さんだったらどうします?」と聞いて行動に移してくれたり、感覚で進めていたものを意図的に組み立てて実践してくれました。一気にレベルアップしたと思います。今若手社員に対しても、意図的にコントロールして組立てながら進めてくれています。
―社長をはじめ、他の社員さんたちの受け止めはどうだったでしょうか
社長も「最初は意味がわからないと思うけど、わからないなりに考えてやってみなさい」と自分自身が乗り越えた経験を話してくれました。社長自身も私に対して言いたいことを我慢してくれていた、ということがよくわかって。厳しいことを言われた部分もありましたが、徐々に社長と私の思考が一緒になっていくようなサポートがありがたかったです。
また、社員全員がいる会議の中で酒井さんに発表してもらったことがあるんですが、ベテラン社員から「学生すごいな」「ここまで真剣に考えて取り組んでいるのか、負けてられへんな」という声が出て。酒井さんの存在が社内の刺激にもなっていました。パートさんたちもみんなかわいがってくれましたね。
▲涙の修了式の様子。青木代表より修了証書を受け取るインターン生の酒井さん
―社をあげてインターンを受け入れてくださったんですね
これは青木光悦堂特有のマインドなのかもしれませんが、大変なことを乗り越える方が面白いよねっていう(笑)。大変だけどめちゃめちゃ楽しい。受け入れによって業務が増えた分、時間の使い方が上手くなって業務効率化にもつながりました。
他の企業さんに対しても「インターンシップを受け入れた方がいいですよ」と自信を持って言えるぐらいの成果が得られたと思います。ほんとに学びになるのがJAEのインターンシップです、と書いていただいたら(笑)。サポート体制もすごく細やかですし、やっぱり人を大切にされているということは実感しました。
―今後もインターンを受け入れていこうと思われましたか?
思います。次は樋口が私の役割を担って、樋口の部下がインターン生を担当するという流れがもう体系的にできましたので。
酒井さんが最後の修了式の日に嬉し涙を流してくれたんです。その姿を見たらやっぱりみんな嬉しかったですし、ほんとにがんばって乗り越えたからこそ得られたものがあったんだろうな、っていうのもわかりました。私自身も、酒井さんと社会人として一緒に仕事をして本当の成果を掴みたいなと思ったくらいです。
―ありがとうございました。ぜひ今後もアントレターンでご一緒ください!
聞き手:林(JAE広報)・岡崎(インターン生)