• 【JAEのSTORY#9】高校生がビジネスの世界を疑似体験
  • 2022.08.24

    #ドリカムスクール #高校生 #キャリア教育

    元大阪ビジネスフロンティア高等学校教諭(現 大阪府教育庁・主任指導主事)大中真太郎さんインタビュー

    2001年に東大阪でスタートした子ども向けの起業家教育(アントレプレナーシップ)教室。これがNPO法人JAEのはじまりです。その後、小・中・高校でのキャリア教育プログラム「ドリカムスクール」や、大学生を対象とした長期実践型インターンシップ「アントレターン」などを開発・実践。数多くの子ども・若者が未来を描くお手伝いをしてきました。

    今回は大阪市立大阪ビジネスフロンティア高等学校(2022年度より大阪府立に移管・以下OBF)で、約10年間ドリカムスクールを共に形にしてきた大中先生のインタビューです。

    OBFは、3つの商業高校が統合され2012年に開校した学校です。現在大中先生は大阪府教育庁の高校教育改革課で、キャリア教育を中心に府下の商業高校の支援を担当されていますが、2020年度までOBFの教員としてJAEのプログラムでご一緒いただきました。


    ―ご自身も商業高校出身でいらっしゃいます

    中学生の頃はあまり進路のことを十分に考えておらず、自分の成績でいける普通科高校を志望していたんです。ただ、当時仲の良かった友だちから「これからの時代パソコン使えなあかんで!」と言われて初めて「あ、それ大事やな。じゃあ」ということで商業高校に進学を決めました。

    ―いつ頃から教員をめざされたんですか?

    中学3年生の担任にすごく良くしていただいた経験から、学校の先生になりたいという思いが少しあったんです。その後高校で情報や簿記などの科目を学習したときに「めっちゃ面白い、この学びを将来教えたい」ということと、「クラブ指導やりたいな」と思ったのがきっかけですね。
    ただ商業高校なので、学校の先生は無理だろうなと少し諦めていた。ですが3年間コツコツと勉強してたら、指定校推薦で運よく大学に進学できて。それがたまたま経営学部だったこともあり、そこで教員免許を取得しようと決めました。

    ―卒業後にすぐに教員ではなく、営業の経験をお持ちと伺いました

    教員になる前に金地金いわゆる金の延棒を販売する会社で、1年間営業を経験しました。希望通り商業高校の教員免許を取得していたのですが、実際に社会に出てビジネスを学んだ上で商業高校に入った方が、説得力を持って生徒たちに教えられる、という思いがあったからです。
    商業高校は経営や経済学部・商学部出身の先生が多いので、一度は就職してから教員になろうという人もある一定数おられる気がします。

    ―1年間の民間企業での経験はいかがでしたか?

    お恥ずかしい話ですが、思ったより成果が出ませんでした。高校の時は商業科目が自分に合っていたこともあって、成績が良かったです。さらに元々実家が商売をしていたこともあり、人と話すこともどちらかといえば好きな方でした。根拠のない自信がありましたが、同期の中では営業成績は低くて全然ダメでした。ただ、ずっとアプローチしてたお客さんが最後の最後に「買おう」と言ってくれ、最後にやっと少し成果が出ました。周りを見渡した時、自分は負けていたという感覚があり、次の仕事ではもう後がないという思いで臨みました。

    ―教員になられてからその社会人経験はどのように影響がありましたか

    やはり結果や数字を重視する部分や、決められた時間内に成果を出す、という姿勢が身についたのはすごく良かったですね。また、高校卒業後に就職する生徒が非常に多いので、社会の理不尽な面や最後に契約が取れた話など、自分の経験談を通じて話すことが多くありました。成果がでるまで努力し続けることが大事だよ、ということを伝えながら生徒を送り出してきました。

    ―キャリア教育に取り組まれたきっかけは?

    キャリア教育を知ったのが、市岡商業に赴任して2年後くらいですね。当時の校長先生から「商業高校は、地域や社会と連携したプロジェクトをやらなあかん。生徒たちに生の現場を見せて、社会人基礎力となる考える力、チームで協力する力、一歩踏み出す力、そんな経験が必要なんだ」という話がありました。そこからキャリア教育のプロジェクトを実施されることになりました。1年目はプロジェクトには関わっていませんでしたが、プロジェクトを経験した生徒たちが大きく変化していき、言葉では言い表しにくいんですけど「あ、これ大事やな」と確信しました。
    商業高校では、検定試験に合格することで生徒がステップアップしていきます。ただ、違う場面で活躍できる子もいるし、学んだスキルを活用する場面もあるし、これは商業高校になくてはならない取り組みだなと感じました。

    ―それがJAEのプログラムだったんですね

    そうですね。今もドリカムを担当されている角野さんと一緒に取り組みました。ちょうど3年目にあずさ監査法人さんとのプログラムが始まった頃、学校が統合されて OBFになりました。
    はじめは生徒たちも「なんでこれやらなあかんの?」「ほんまにいるの?」っていう反応だったんです。ただ、やってみたらおもしろくて、どんどんのめり込んでいきました。
    さらに、就職や進学の時に経験したことを面接で話すと、企業から評価されて採用される、というような実績もあがってきました。その後は先輩たちが「このプログラムおもしろいで」と伝えてくれるようになり、3年目からはOBFに入学したらこのプログラム、という看板のような存在になっていきました。

    ―どんなプログラムだったんですか?

    最初は企業研究として財務諸表を分析するようなプログラムでした。ただ簿記の知識や技術が身に付いていない生徒にとっては活躍の場が少なかったこともあり、次のプログラムからは知識量に関係なく生徒たちが参加できるように設計しました。商業科目、ビジネスの科目に前向きに取り組めるようにしていこう、と生まれたのがあずさ監査法人さんとお弁当販売事業をされている(株)ミレニアムダイニングさんとの協働プログラムです。
    生徒たちがお弁当を開発して仮想の街で販売し、多くの利益を狙うプログラムです。ターゲットの設定から原価計算、お弁当の内容、売価の決定、さらには資金調達としてあずさ監査法人の会計士さんとミレニアムダイニングさんにプレゼンをします。その後、仮想の街でそれを販売して利益を競い合います。
    その過程に市場調査とあらゆる意思決定が隠れています。正解がないし、相手の動向によって自分たちが不利になったりもします。ビジネスの世界でも当たり前の手応え、おもしろさを擬似体験できる設計になっていました。
    あずささん、ミレニアムさん、JAEさん、OBFの4者で試行錯誤して開発していきました。


    ▲あずさ監査法人の社員のみなさんの話を聞くOBFの生徒たち

    ―生徒たちにどのような変容がありましたか?

    「簿記を使うとどんなことができるのか」が実感でき、会計士になりたいという夢を持つ生徒が非常に多くなりました。また、ミレニアムダイニングさんが企業を経営していくためには簿記やマーケティングが大事ということを実体験に基づいて話をしてくださいました。もちろん、私たちも授業で伝えてはいますが、企業の方からの説明を受けると、生徒たちの納得度が違いました。本当に両社のおかげで生徒たちが大きく成長できたことを実感しています。
    また、元々就職しようと思っていた生徒がプログラムを経験して、大学でもっと学びたい、と進路変更したこともあり、プログラムの影響がすごく大きかったですね。
    他にも自己表現の苦手な生徒がこのプログラムに参加すると自然と意見を話せるようになり、他者と協働できるなどの力がついてくるのは大きな成果だと思います。通常の授業を聞いているだけでは、そんな力はついてきませんし、授業の学びと実学の両輪により、知識を活用できるようになりました。

    ―企業と連携することで得られるものは?

    あずさ監査法人の社員さんたちが、高校時代からの人生マップを示してくれる座談会が毎年ありました。実はそれが生徒や私たち教員にも非常に好評でした。みなさんいろんな経歴を経られており、いろんな企業の方や大人と出会いにより、多様な生き方を知ることで、進路選択の幅も広がったと思います。
    また、私たち教員も今の採用状況や今後のビジネス社会において、どのような人材が必要なのかを知ることができます。社会のニーズを感じ取り、授業やプログラムに反映していけるというのは大きなメリットです。これまでは「日商簿記2級をもっていたら十分」、と資格取得を大きな目標にしていたようなところがありましたが、今はその知識と技術を活用してどんな分析ができるの?そこから何が言えるの?ということが求められるんだろうなと強く感じています。

    ―打ち合わせを何度も重ねられていたと聞いています

    企業さんからはいつも期待以上のものが返ってきて、驚かされた部分が多かったです。特に両社とも今の生徒に足りないところをすごく重視されていました。「生徒たちをどう育てたいのか」について、時間をかけて一緒に議論していました。「協働の力が足りないなら協働の場面を多く設けましょう」「簿記や原価計算の本質が理解できるような中身にしましょう」といろんなエッセンスを入れていきました。
    また、学年によって生徒たちの傾向も違い、生徒たちの現状も見ながら調整し、毎年ブラッシュアップしていけるところも、このプログラムの魅力です。

    ―プログラム自体が成長していく感じ?

    そうですね。成果物も毎年変化していました。そこが私たちにとっても飽きないし、やりがいのあるところ。生徒たちも「去年と違うやん」って、どんどんいいものになっていったと思います。
    また、いわゆる「なぜ学ぶのか」「勉強したら将来何があるのか」が腑に落ちるので、自ら勉強に取り組むようになっていきますね。

    ―JAEと協働する価値はどんなところにあったとお考えですか?

    自分だけが必死に取り組んでいて、他の先生にあまり価値が伝わっていない、という時期もありました。そのような状況においても、学年全体で協力しながら取り組まないといけません。そこでJAEさんが全体でデモンストレーションする場を設けてくれ、あずささんやミレニアムダイニングさんと協働する、という流れを作ってくださりました。企業との難しい調整を担っていただけたこともとても助かりました。

    ―JAEに期待することを教えてください

    商業教育はビジネスの疑似体験を通じて自らのキャリア育成につながると感じています。商業系の高校以外においても、キャリア教育が大事だと思っています。ずっとその必要性を訴えてくれていますが、今後もそこに期待しています。また、先生の中には協働が苦手、変化も苦手という人も多いです。そこをサポートしていただければと感じています。

    ―先生の今後の展望は?

    今は学校の外からキャリア教育を推進する立場ですけど、将来的にはやっぱり現場で先陣切ってキャリア教育をやっていきたいですね。若い先生方のやる気を現場でサポートしたいです。

    ―ぜひまたご一緒させてください!本日はありがとうございました。

    聞き手:林(JAE広報)

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