• 【JAEのSTORY#13】地域貢献だけでなく社員育成につながる協働の形
  • 2023.04.20

    #キャリア教育 #ドリカムスクール #公民連携 #社員育成

    山陽製紙株式会社・原田社長、原田専務、竹下マネージャーインタビュー 

    2001年に東大阪でスタートした子ども向けの起業家教育(アントレプレナーシップ)教室。これがNPO法人JAEのはじまりです。その後、小・中・高校でのキャリア教育プログラム「ドリカムスクール」や、大学生を対象とした長期実践型インターンシップ「アントレターン」などを開発・実践。数多くの子ども・若者が未来を描くお手伝いをしてきました。

    今回は大阪府泉南市の小・中学校でドリカムスクール(以下ドリカム)導入時から、協働企業として参画いただいている山陽製紙株式会社の原田社長・原田専務・竹下マネージャーのインタビューです。

    泉南市で製紙業を営む「山陽製紙株式会社」。事業を通じて循環型社会に貢献することを理念とされています。ドリカムについて、社長、専務、マネージャーそれぞれにお話を伺いました。

    ▲2007年のドリカム導入以降、一緒にプログラムに伴走いただいている山陽製紙株式会社の原田社長(右)と原田専務。


    ―2016年からドリカム事業に参画いただいていますが、きっかけや思いを教えてください

    原田社長:弊社の前身である「山陽紙業」は昭和26年に広島から泉南市に移り製紙業をはじめました。当時は社員も多くが広島や九州、四国エリアの方たちで、泉南地域の方とのつながりはほとんどありません。さらに製紙会社というのは水をたくさん排水する、いわゆる公害産業だったんですね。そこで男里(おのさと)川流域の企業が集まって、清掃活動など地域貢献に少しずつ取り組んでいきました。

    ―当初から地域貢献の活動に取り組んでこられたんですね

    原田社長:そうですね。そのなかでも大きな転機は2007年です。設立50周年を迎えて、次の100周年を目指して経営理念や企業の目的を再構築したのですが、製紙メーカーとして「循環型社会に貢献する」ということを目標に掲げました。具体的な取り組みを模索していたときにJAEの塩見さんが飛び込んでこられたんです。私自身の母校でもある雄信(おのしん)小学校のキャリア教育に貢献できる、というプログラムだったこともあり参画することを決めました。ありがたいきっかけをいただきましたね。

    ―原田専務はいかがでしょうか

    原田専務:以前から「社会課題の解決に取り組んでいるようなNPOさんと協働するのがいいよ」、と聞いていたこともありすごく前向きに考えられました。JAEさんだけでなく、他のNPOさんのいろいろな活動にも参加していますが、ご一緒させていただくことで自分たちのできることが広がっていると感じています。

    ―専務は以前教職につかれていたとお聞きしています

    原田専務:もうずっと前のことですが、やはり子どもたちの可能性を目の当たりにできる機会があることは、本当に幸せなことだなと思います。同じように社員のみなさんたちの成長を実感できることも幸せだなと感じています。キャリア教育への参画を通じて、社内の人材育成に取り組めていることはすごくありがたいですね。

    ―自社にとってこのプログラムは人材育成としての側面も強いと感じられていますか?

    原田専務:社員の成長が会社の成長と捉え、ずっと人材育成を大切にしてきておりました。13の徳目朝礼や理念と経営の勉強会などを重ねていますが、やはり昔からの社風や価値観が固定してしまっている側面も。そこに外部の全く違う視点でさまざまな取り組みをすると、多くの気づきがありました。キャリア教育のプロジェクトが社員の成長に相乗効果をもたらしていると感じています。

    ―具体的にはどんな成長を感じられますか?

    原田社長:参加メンバーが小学生のみなさんに自社の理念や概要を紹介する機会があるのですが、どのように伝えればきちんと伝わるのか、を工夫しなければならない。さらに自社を見つめる機会は意外に少ないので、企業理念の深掘りという点で非常に効果がありました。直近では3名の中堅社員が3年続けてドリカムに参加していたんですが、小学生に寄り添ってわかりやすく話す、という経験は部下育成という視点でも勉強になったのではないかと思っています。
     例えば加工課で長を務めている社員はスタッフを巻き込む力が着いたと感じますね。小学校での彼らの発表を聞いていると、非常に落ち着いてわかりやすく話してくれていて。子どもたちの学びに貢献しながら、非常に勉強になったり成長していることを感じます。

    ▲実際に工場を訪れた子どもたちに伝わるように説明

    ▲実際に工場を訪れた子どもたちに仕事について説明


    ―ドリカムに取り組まれた1年目について振り返っていただけますか

    原田社長:はじめは勝手もわからず、誰がプロジェクトに参加するのか人選から悩みました。ただ「人材育成」もプロジェクトの成果の1つであるということを理解していたので、若手社員を中心にスタートしました。いろいろな試行錯誤を繰り返しながら、現在は中堅社員に焦点をあて、年々効果があがっている感触があります。

    原田専務:自社にはないすごく斬新な進め方をしていただきましたね。自分たちではできない手法で塩見さんがリードしてくれましたし、社員の成長のためのいろいろな要素を組み込んだプロジェクトにしてくださっていて。地域貢献、小学校の先生たちとの交流の場を作っていただいたし、お任せしてよかったなと思っています。
     また、社員たちが今まで気づいていなかったような力を発見したり、発揮するなどさまざまな形で確かに成長しました。進め方も一方的ではなく、お互いに意見交換しながら進めていってくれたこともよかったです。

    ―学校やNPOの視点や手法は企業のそれとは違いがありますか

    原田専務:コーチングの手法や自己を振り返るためのツールなどはとても業務に役立つなと感じていました。自分自身も振り返りを経験したことで、社員さんたちの人生についてもすごく考えるようになりました。社員さんたちがチームをつくって、そしてひとつの目標を自分たちで掲げて、それに挑戦していくっていうスタイルは、今5つある委員会の中でも活かされていると思うんですよね。委員会で自分たちで目標を決めて運営していく、というのは、ドリカムを経験した人たちがそこで学んだ手法で進めているように思います。

    ―地域や学校との関係性での変化などはありますか

    原田社長:男里川の清掃を続けてきましたが、今では同じように川をきれいにしたい、という思いの方たちともご縁ができました。月に1度ですが、一緒に清掃活動に取り組んでいます。最近は雄信小学校の子どもたちや大学生も参加してくれています。楽しそうに参加してくれているのを見ると非常にありがたいですし、少しでも地域と接点ができてうれしいですね。

    ▲アドプト・リバー“男里川の自然を守る会”として実施している月に一度の清掃活動。

    原田専務:小学校の子どもたちや校長先生と交流させていただく中で、牛乳パックをリサイクルするという活動が自然に生まれてきたんです。先日、その牛乳パックで紙を漉き、小学校にプレゼントしました。
     子どもたちは自分たちが飲んだ牛乳のパックが、リサイクルされることを体験できますし、おうちへ帰っても、紙ってこういうふうに循環できるんだよねというふうに話していただければ、より地域の方たちも関心をもっていただけるかなと思っています。
     循環型社会の実現は一社だけでできることではないので、泉南エリアの子どもたちや保護者、先生方、地域の方それぞれが主体的に参加いただけるようなことを続け、循環の輪が広がったらいいなと思ってます。

    ▲雄信小学校5年生のみなさんと清掃活動前のミーティング


    ―小学生が重要なパートナーになっているところが、やっぱりすごくいいですね

    原田専務:そうですね。子どもたちがこれからの社会をつくっていく存在なので。

    原田社長:経営者としても、異業種の方との接点は非常に勉強になります。学校という企業とはまったく違う社会との関係もやはり必要ですし学びが多いですね。
     また、ドリカムを経験するなかで、中小企業にとって地域社会への貢献は目標の1つでなければならない、と強く感じるようになりましたね。

    ―今後の展望はいかがでしょう?

    原田専務:社員さんそれぞれにいろいろな個性がありますが、プロジェクトを通じて本来の自分の良さや成長を自身で承認してもらえたらいいなと思っています。
     社内全体にもドリカムの取り組みを広げていきながら、紙作りを通して循環型社会に貢献する、という理念を実行していきたい。また、ますます地域や子どもたちとつながっていきたいですね。
     今、新たな課題を小学校からいただいています。課題があるから前へ進めるので挑戦していけたらと思います。子どもたちが「働く」ということに夢をもってもらいたいですし、地域にたくさんの会社があるけれど、ひとつひとつ社会的な役割があるんだということを知ってもらいたいですね。

    原田社長:子どもたちの感想の中で「大きくなったら山陽製紙に入りたい」という声をいただけたことはすごく印象に残っています。ドリカムを通じて山陽製紙の取り組みを知っていただけて、将来もし入社していただけたらすごくうれしいですね。そんな会社になりたい、ならなければ、という思いです。

    ―今後のいろいろな広がりも楽しみですね。ありがとうございました


    ―続いてドリカム導入時から現場の社員さんに伴走していただいている竹下さんにもお話を伺います。よろしくお願いいたします。当時、ドリカムの実践をしていた大和ハウスさんに見学に来ていただきましたが、そのときのお話を教えていただけますか

    ▲ときには厳しい意見をいただきながらプログラムに伴走いただいている竹下マネージャー


    竹下:
    大和ハウスさんでは最後の発表―いわゆる成果の部分を見せていただいたんです。ただ個人的には結果だけでなくそこまでの過程での失敗や改善の中に学びがあったり成長があると思っているので、過程が大事だなという思いは強く持ちましたね。

    ―実際に取り組みをはじめてからはいかがでしょうか

    竹下:当初は若手社員が参加していました。ただなかなか参加メンバーが次のステップに進むということが難しかった。そこで3年間同じメンバーで、しかも中堅社員が参加する形に変えたんですね。3年というスパンになったことで、方向性やどんなことを提供したいかということが明確になっていったので、長期で関わってもらうことが効果的だと感じています。
     通常業務の中で時間を捻出することの大変さもありますし、ドリカムというプログラムには答えがない難しさがあります。子どもたちが違えば自分たちも違う。手を抜くと子どもたちからはそれなりの答えしか返ってこない。そこは子どもたち本当に実直で。子どもたちをどう上手に巻き込んでいくか、と試行錯誤するしかない。でもその経験が結果的に仕事上でのコミュニケーション力の向上にもつながるんですよね。
     塩見さんにも参加メンバーに対して要求レベルを高めてほしい、という要望を毎年お伝えしています。

    ▲当初は若手社員がドリカムに参加し、進め方なども一緒に試行錯誤していた


    ―社員さんの成長も感じられていますか

    竹下:もう全然違いますよ。子どもたちとの関わりで学んだことを、どのように実際の仕事の場で活かすかを深く考えるメンバーはすごく成長します。
     参加する社員は会社の代表として参加していますので、やはりこの気づきや学びを、持ち帰ってほしい。ドリカムが終わった後が本当のスタートラインなんですね。ドリカムというのは教育の場であって、それをどう業務に活かすかっていうのが大事で。そこをやっぱりもっともっと社内に伝えないとダメだと感じています。そしてみんなに参加してほしい、この学びの場に入ってほしいというのが本音です。
     メンバーの提案に対して塩見さんから厳しいダメ出しをいただくこともありますが、それでいいと思っています。そこで試行錯誤することが仕事にも必ず生きるので。また、次のメンバーがドリカムに参加するときにもサポートする立場になって、つなげていってもらいたいですね。ドリカムのいろんな場面で悩みが生まれると思うので、そのときに相談できる存在になってほしいです。

    ―ドリカムの魅力はどんなところにあると感じられていますか?

    竹下:地域や子どもたちに未来を、何かを伝えられる、というところが魅力だと思っています。ドリカムに関わってから泉南以外の地域からも問い合わせをいただくことがあるんですね。教育の場に必要とされていることを実感しています。今後、泉南市だけでなく阪南市などに広がりがでたらおもしろいなと思っています。他の企業さん、学校ともコラボして交流が生まれたり企業間のつながりが生まれたり、と広がっていけばいいですね。

    ―ドリカムへの熱量をすごく持ってくださっています

    竹下:シンプルに子どもが好き、ということも大きいです。子どもたちって本当に楽しいです。さらに山陽製紙は創業からもうすぐ100年なんですが、子どもたちがこんな会社に入りたい、と思ってもらえる会社になりたい。
     子どもたちに未来を見せるという意味では、1企業だけじゃなくて大人全員にその義務があると思ってます。子どもたちに誇れる仕事や誇れる行動を伝えるというか。そこを大事にしたいというのが私の思いです。

    ―子どもたちに貢献したいという強い思いの原点はどこにありますか?

    竹下:山陽製紙でもう30年以上勤務していますが、部下さんの育成という視点が大きいですね。以前は私自身、勤務中にミスがあると「何やってんねん!」と怒ってばかりでした。でもある研修を受けた時に「叱ると怒るの違い」を学んだんです。そこで自分自身の部下さんたちへの伝え方が間違っていたことに気づきました。例えば何か問題や労災につながるようなことが起こったときに、個人を責めるのではなく、環境や状況を改善すべきである、と。そこからすごく伝え方が変わりましたし、周りが非常に良く見えるようになりましたね。今では怒られているメンバーがいたら、逆に怒ってるメンバーを叱るんです。萎縮させるような教育はするな、と。

    ―今後の取り組みへの期待などはいかがでしょう

    竹下:社外で見て経験したことや気づき、外部の人とのつながりを仕事にどのように還元できるか。社内での教育の場では得られないこと、感じることがあると思います。学校での講話などを経験することも1つ。どんどんそんな機会をみんなが持てたらいいですね。
     同時に子どもたちを教育する学校としての要求はもっと高いのではないか、とも正直思います。その要求に企業としてどこまで応えられるのか、高められるのか、ということが私たちの最大のチャレンジなのかな、と。
     今後は学校の先生とももっとコミュニケーションを取りたいですね。先生たちも大変な状況だとは思いますが、私たち企業との交流が先生たちにとっても何かを得られる機会になるといい。それが子どもたちの未来にもつながっていくと思っています。

    ―ありがとうございました。今後もよりよいプログラムづくりに協働いただければと思っております。引き続きよろしくお願いいたします

    聞き手:林(JAE広報)

    アーカイブ

    ページトップへ