2023.06.29
#キャリア教育 #ドリカムスクール #公民連携 #社員育成
株式会社山陽製紙・馬項琨さん、藤本康彦さん、池宮大樹さんインタビュー
2001年に東大阪でスタートした子ども向けの起業家教育(アントレプレナーシップ)教室。これがNPO法人JAEのはじまりです。その後、小・中・高校でのキャリア教育プログラム「ドリカムスクール」や、大学生を対象とした長期実践型インターンシップ「アントレターン」などを開発・実践。数多くの子ども・若者が未来を描くお手伝いをしてきました。
今回は大阪府泉南市の小中学校で実施しているドリカムスクール(以下ドリカム)に山陽製紙株式会社を代表して関わっていただいた社員のみなさんにインタビューしました。
泉南市で製紙業を営む「山陽製紙株式会社」。当初は若手社員が参加していたドリカムですが、2020年度から3年間は、それぞれの部署を引っ張る存在の馬項琨(ま こうこん)さん、藤本康彦さん、池宮大樹さんが担当。3年間のドリカムについて話していただきました。
―まずはみなさんの勤続年数と現在の業務を教えていただけますか?
藤本:今年の8月で28年になります。今は製造過程を担当しており、原料を溶かして色をつけたり薬品を入れたりして次の工程に渡す仕事がメインですね。
池宮:僕は15年。製造なんですが、藤本さんの部署で溶かした原料をロール状に巻いていく工程、つまり製紙している工程ですね。その部門で責任者をしています。
馬:私は13年目ですね。大きな紙ロールをスリット加工(切断)して包装梱包し、最終的に出荷してお客さまに提供する作業を担当しています。
ーありがとうございます。はじめにドリカムに参加することになったときの印象を教えてください
藤本:僕らが担当する以前は、若手社員がドリカムを担当していたんですよね。全体発表に何度か参加したんですが、やはり子どもたちと上手に関係を作っているのは若手だからこそだなという印象を持っていて。ですので、僕らのような30代40代の人間が10代20代と同じことをできるかというと、やはり恥ずかしいという思いが一番先にありましたね。小学生の子どもたちと仲良くできる自信もなかったので、正直気が重かったですね。
―みなさんうなずいてらっしゃいますね(笑)
池宮:僕も会社では教える立場なので、部下に僕らの醜態を見られたら恥ずかしいなという思いがありました。普段の仕事とまったく違うことに一から取り組むということに、うまくできなかったらという不安が一番でしたね。でも実際にやってみると子どもたちが素直に学んでいる姿勢に触れることができましたし、ドリカムというプログラムに対してすごく見直したなっていうできごとがいっぱいありましたね。
馬:私も日頃、業務の中で部下たちにもちゃんと伝わっているのか、というところで悩みがあるのに、小学4〜5年生の子どもたちに伝わるのかという壁がすごくありました。彼らの気持ちが理解できるのか、という不安も大きかったですね。
―若手の部下のみなさんとのコミュニケーションの難しさを日々感じられていたということですね
馬:会社の目標に対していかに部下たちをリードしながら進んでいくか、ということを試行錯誤していますが、なかなか伝わらないのが現状です。それなのにさらに年が離れた子どもたちに、今の経験や人生という内容をどうやって伝えるのかなと。
―実際にはじまってからはいかがでしたか
馬:緊張してましたよね。
池宮:ほんと緊張してましたね。
馬:最初のドリカムメンバーは10代だったから一緒にドッチボールとかをして仲良くなってましたもんね。私たちにはできないですもん。
池宮:私は特に人前に立って話すということが苦手で、大人の前でもうまく話せないのに、子どもの前でどうやってうまく話せばいいのか、というのはすごいプレッシャーでしたね。でも途中でドリカムはそれを鍛錬する場になっているな、という気づきはありました。
―子どもたちにわかりやすく伝える、というところで苦労されたんですね
池宮:プロジェクトの内容を責任を持ってわかりやすく説明しないと、というプレッシャーがあり、それが一番しんどかったですね。
伝わる言葉に置き換える、ということに苦労しました。この言い方では絶対伝わってないな、ということを感じながら修正して3年目でだいぶマシになったと思いますね。3年目が一番気づきが多かったですね。1年目は何をやっても自分はこんなもんか、と落ち込んで。もちろん1年目も子どもたちと仲良くもなれましたし、交流は楽しかったですけどね。
藤本:実は子どもはもう卒業してますが、今も参観日や運動会のときにときどき学校へ行ってるんで今の教育というのは少しは見てきてるんです。いろんな面で僕らのころとは違うので、戸惑いも大きいです。そこで僕らが山陽製紙の代表として行ったときに、今の教育や子どもたちに合う言葉遣いを意識する、ということは一番気にしていたところですね。
池宮:本当に自分たちの頃と比べて時代が変わってる、という感触です。仕事でも同じで、思いがあって伝えていても、伝え方ひとつで印象が変わったり、受け止められ方が違ったりしますから。
―3年目はどうでしたか?
藤本: 3年目は慣れてきてたので、気持ち的には楽にはなっていましたね。
池宮:ただ内容はすごくハードでした。濃かったです。1年目2年目があったからこそできた内容だな、という実感はありますね。
馬:内容はすごく充実してきましたよね。僕は緊張もなくなってましたしね。
池宮:僕自身は、自分の世界観だけで話したらあかんな、という気づきはすごく大きかった。1年目は言いたいことを言ってたので、先生は多分何言うてるんかなと思ってたと思いますね(笑)。2年目はちょっとそれを意識したけどなかなか実践できなかった。3年目にして周りの反応をみながら、みんなが参加できるような楽しいプレゼンにしていくという意識を持てるようになっていた。以前の僕は、自分の話だけを伝えようとして、周りを引き込もうとする能力がまったくなかったんで。俯瞰して見られるようになったというか。それが普通の仕事でも意識できてるなというのは、このドリカムですごく学びになったかな。
―子どもたちの反応を感じて修正していく感じでしょうか?
池宮:やっぱり毎回、伝わってなかったなぁという反省がありましたね。実際の業務に反映できているかはわかりませんけど、常日頃意識はするようになりました。自分の意見が絶対ではなく、部下の意見もどういう意味で言ってるのかな、と一旦聞き入れるようになったと思います。
―意識の変化があったということですね
藤本:職場では厳しく叱ることもありますが、愛情を持って関係性を作っていますし、フォローもしています。学校ではもちろん山陽製紙という看板を背負ってる社員としての言葉遣いや姿勢でがんばっていましたが、毎回どうやって子どもたちを笑わせようかな、と考えてました(笑)。
あとは毎回セッションするたびに目標や目的を考える時間があって、3年間みっちりやりましたので、そこは身についたというか。結構ハードなドリカムでしたね。
馬:私の部署では、部下全員がほとんど年上なんですね。ですので以前から、それぞれの性格や考え方を踏まえてどうしたらみんなを巻き込んで業務を進めていけるか、を常に考えながら進めてきています。ドリカムでも一人一人というのは難しくても、できるだけ子どもの立場で考えて、ということは常に意識して触れ合っていました。紙を作る「手漉き体験」をしてましたが、そこはやっぱり講義の時間よりは子どもたちとの距離も近くなりますし、こちらも楽しかったですよね。最近小学5年生になる息子の友だちがしょっちゅう家に遊びにくるんですが、その子たちといい関係を築けているのは、ドリカムの影響もあるかもしれないですね。
―ドリカムの課題を感じられることはありましたか?
馬:これまでJAEさんで積み重ねてこられた経験があってプログラムを組み立てられてるんで、意見を言えるときはお伝えしてきましたけど、全体の流れとかはいいんじゃないかと思っていますね。
藤本:僕はプロジェクトの継続性、というところが課題かなとは感じています。本当はドリカムを体験した5年生が6年生で何か継続できているといいな、と思いました。やりっぱなしで終わらずに、次の段階を見たい気はしますね。
池宮:時間的に難しいかもしれないですが、プロジェクトの内容を考えるところから学校と一緒にできるといいですね。もう少し子どもたちと交流を深める時間もあればいいなぁとは感じました。
馬:お互い限られた時間の中での活動なので、こんな大人との出会いがあったな、一緒にがんばったな、と感じてもらえるだけでもうれしいかな、と思います。その経験を経て彼らが中学、高校、社会人になったときに何らかの気づきになれば、という感じでしょうか。
―皆さんドリカムに対してすごく考えてきてくださってるんだなと感じました
馬:毎年、ドリカム終わってから「山陽製紙で働きたい」という声があったのはうれしかったです。1人の男の子は私のところに来て直接言ってくれましたね。1人でもそういうことがあるとうれしいですね。いろいろ感じてくれたんだな、と。
池宮:女の子もいましたよね。工場見学のときに「ぜひこういう製紙会社で働きたい。事務でも現場でもどこでも働きたい」って言ってくれたんですよね。環境問題やリサイクル、ということがすごく伝わったな、本気で考えてくれるんだなという実感はありました。いいことやってる会社やねんな、と知ってもらえたというか。工場見学するから余計に伝わるんだとは思いますが、めっちゃうれしかったですね。
馬:私たちが毎月やっている川の清掃活動にも担任の先生と子どもたち6人ぐらいかな、来てくれたんですよ。働いているからにはやっぱり会社の存在や価値を知ってほしいですね。実際に会社への評価はドリカムで変わった部分もあるんじゃないかな。
池宮:そうそう。認知度が上がるのはやっぱりうれしい。
藤本:僕自身は消防団や祭りなどでは地域とすごく関わってますが、それは個人的なつながりであり、山陽製紙としてではない。まだまだ地域での会社の認知度は低いなと思います。でもドリカムで接した子どものお父さんがたまたま知り合いで一緒にいた時に、その子が「お父さん、やすくんとおるん?すげー」って言ってくれて。それはうれしかったですね。
―最後に今後のドリカムへの期待や思いを教えてください
藤本:今の話のようにやっぱりドリカムを経験した子どもたちが大人になったときに、1人でも「山陽製紙で働きたい」とは思ってほしいですね。
社内的な課題でいうと、ドリカムが会社の認知度向上や地域の活性にも役立てているという価値を共有し、参加メンバーに対する社内でのサポートは必要だなと思っています。僕自身も自分が参加するまでは「ドリカムで仕事を抜けるんか」と思うことも忙しい時期にはありました。でも実際に自分が3年間やってみて、次のメンバーが行く時には「今日は発表なんか?」と気にかけられるし、アドバイスもできる。「行ってこいよ」と送り出したいなと思いますね。日頃とは違う業務、しかも人によっては苦手な分野に取り組んでいるので。
池宮:同じですね。実際に経験し、1日使って取り組まないと本当に実になるものはできないことがわかっているので、応援したいと思います。同時に参加者がドリカムで経験して学んだことを全社員に共有する、ということも大事なんだなとも感じています。そこは自分自身の反省点でもあります。
僕としては実際ドリカムに参加してほしいな、と思う部下はいますね。普段とはまた違った力を発揮する場が出てきますので、ドリカムを経験することでもっと力を発揮できるんじゃないかな、と。リーダーシップを学ぶ機会にもなるので、リーダーになってほしい人に経験してもらいたいなと思います。
馬:広い視点でものごとを見る力や考える力、判断力もつくと思いますね。目的をもって行動することの大切さへの気づきもありましたし。子どもたちの教育に役立てる、ということにも価値があるのかな。3年間の中でつらいときもありましたが、楽しかったですね。
―3年間という長い期間、一緒に取り組んでいただきありがとうございました!今後もドリカムのサポートをぜひお願いいたします
聞き手:林(JAE広報)