• 【JAEのSTORY#5】「学びの本質」を体感できるキャリア教育を
  • 2022.03.25

    #ドリカムスクール #スタッフインタビュー

    JAEスタッフ 角野綾子インタビュー 

    2001年に東大阪でスタートした子ども向けの起業家教育(アントレプレナーシップ)教室。これがNPO法人JAEのはじまりです。その後、小・中・高校でのキャリア教育プログラム「ドリカムスクール」や、大学生を対象とした長期実践型インターンシップ「アントレターン」などを開発・実践。数多くの子ども・若者が未来を描くお手伝いをしてきました。2021年には創業から20年を迎えました。今回はドリカムスクールを担当する角野綾子のインタビューです。

    「何のために学ぶのか」ー子どもの頃の経験から自分の中に湧いてきたその問いかけ。自身が意識をしなくても、流れるようにその答えに行き着こうとしているような、そんな印象を受けました。『ドリカムスクール』の立ち上げから関わってきた角野綾子に話を聞きました。

    ―『ドリカムスクール』では中学校などに行くことが多いと思いますが、角野さんはどんな中学校生活を送っていたんですか?

    私自身は、志望していた中学校に入って楽しい学校生活が始まる!と思っていたら、「テストの点数を1点でも上げて、少しでも偏差値の高い大学へ!」みたいな、そんな期待と圧力を感じる、正直想像していたのとは違う学校生活でした。進路も進路情報誌を見るくらいで、基本は偏差値で決める…。「ランクの高い大学に行くために勉強するの?」「何のための勉強なんだろう?」って、すごく悶々とした気持ちがありました。本当に鬱屈したものをずっと持っていたんですよね。

    ―それは辛いですね。

    進路は悩みに悩んだ末、大学では自分が興味のあった環境系の学部に行こうと思ったんです。小さい頃から動物や自然が大好きだったから。キャンパスが兵庫県の山間部だったのでクワガタやキジやマムシのいる自然豊かなところで、すごくのびのびと過ごせた。自分たちで環境NGOを立ち上げて活動したりもしました。そうやって自分の好きなテーマで思い切りできたことで、手応えみたいなものも感じたんですよね。悶々とした中高6年間と、対照的な大学4年間というのが自分の中でベースになってるなと感じます。自分の中に「何のために勉強するのか」という大きな問いをもらえたという意味では、中高時代もすごく意義があったなとは思いますね。

    ―大学を卒業してからは環境系の仕事に?

    そうです。環境問題に関心があったので、シンクタンクに就職して環境コンサルタントになりました。でも市民に対して環境問題に関する意見を募っても、あまりにも反応が薄くて。自分も含め、多くの人は自分たちの社会をより良くしていくという部分は人任せにしているように感じました。そういう意識だと、日本の将来は危ういんじゃないかと思った。それで義務教育の段階から自分と社会のつながりや、自分がそこにどう行動できるかを考えるような機会が必要だと思うようになって。ちょうどその頃にご縁があって出会ったのが当時のJAE代表の山中さん。JAEの「学校と社会をつなぐ、社会に対して自分なりに考えて取り組む」という考え方がまさに私のやりたかったことと重なったので、JAEでコーディネーターとして働くことになったんです。

    ―JAEではずっと『ドリカムスクール』の担当ですか?

    そうですね。学校と協働するプロジェクトの立ち上げから関わっています。子どもたちが自分のやりたいことを考える機会を提供したり、企業の社員さんに授業に来てもらって、実際に働いている人に教えてもらいながらその内容を経験してもらったりするのがドリカムスクール。最初は私も学校現場のことも全くわかっていなくて失敗続きでしたが、先生たちにもいろいろ教えてもらいながら一緒につくってきました。

    大変なこともありましたか?

    そりゃもうたくさんありましたよ。難しいなと感じる事の一つは、企業の社員さんが意図しない形で先生側に物事が伝わってしまうこと。例えば、社員さんが学校に行ったときに照れ隠しのつもりで「本当は来たくなかったんですけどね()」って言ったことがあるんです。それがいろんな関係性ができた上での言葉だったら冗談で終わるんですが、そのときは先生側が「やる気がないんじゃないか」と捉えてしまって中々関係がうまくいかなくて。社員さんや先生たちとの信頼関係を築いたり、目的を共有して一緒にプロジェクトを進める場を作るのがコーディネーターの仕事なんですが、そのときは全然私の手も回ってなくて。すごく申し訳なかったですね。もっとうまくできたんじゃないかって未だに思い出します。

    ―難しいですね。コーディネーターは学校現場と企業をつなぐような役割なんですか?

    そうですね。直接的には子どもたちよりも大人と関わることの方が多いです。もちろん子どもが一番の中心だし、最終的な判断の軸は「それが子どもにとってどうなのか」に尽きる。その子どもたちの学びのための仕掛けをつくるのがコーディネーターの仕事です。仕掛けがうまくいけば授業もうまくいくし、仕掛けがうまくいかなければ授業もうまくいかない。

    ―裏方ですね。

    そう。私、日常でも常にそういう視点で見てしまうんです()。舞台とかエンターテイメントを見ていても「ここでスタッフさんこういう動きするんだ」って裏方ばっかり見てしまって。我が子の運動会でも先生たちの動きについ目がいってしまう。それで勝手に変なポイントで感動したり()。もうすっかりコーディネーター気質になっちゃいました。でもコーディネーターは自分がやりたいことですからね。だから本当に楽しい。


    ▲SDGsのイベントにて

    ―「本当にやりたいこと」

    うまくいかないことが続くと、この仕事をしていいのかなって悩むこともあるけど、じゃあ何を目指すのか、何がしたいかって考えたらやっぱり不思議とここに戻ってくるんです。JAEの枠の中では難しいこともあると思って個人で活動したりもするんですが、やっていくと結局はコーディネーターの仕事とリンクしてくるんです。最初は違うことをしていたつもりでも「あ、これJAEでできるわ」ってなる。

    ―コーディネーターをしていてよかったと思うのはどんなときですか?

    やっぱり子どもたちの反応が一番嬉しいです。ドリカムって『否定しない』という空気感をすごく大事にして、誰もが認め合える場づくりができてるから、普段学校に来れない子がドリカムだけは参加できるという話も聞くんです。すごく驚くようなこともありました。『場面緘黙(かんもく)』という症状を持つ子がいて、その子は家族と特定の親しい友人1人とだけ話ができて、それ以外の人とは全く話せなくって。担任の先生を含めてクラスのほとんどがその子の声を聞いたことがない。ドリカムってグループワークもあるし心配しながら見ていたんですが、その子の班がすごく頑張って優秀賞を取ったんですよ。それでクラスの発表の様子を見てたら、なんとその子がみんなの前で自分のセリフを言って発表しているんです。

    ―え!すごい!!

    あれはすっごく驚きました。特定の友だちに小声で話すことが精一杯だった子が、クラスのみんなの前で話すなんて。先生も「こんなことがあるなんて思わなかった」とすごくびっくりしていました。そうやって期待した以上のことが起こったり、誰かに届いて背中をそっと押すことになっていたら、すごく嬉しいなって思います。
    あとは本当に子どもたちのことを考えて授業をしている先生を見ると感動しますね。子どもへの声かけ一つ、間の取り方一つ考え尽くされてるなって感じる。本当に生徒の成長になるように綿密に考えられているのを見ると、なんか「うわぁ…」って唸る感じになりますね。

    ―具体的にどのような関わり方なんですか?

    視点が全然違う。成績をどう上げようとかじゃなくて、その子の人間としての成長をどう促していくかという視点。教えるというよりも学びを促す。学びの在り方自体や、学びの本質を見据えてるなって感じる姿に出会うと、もう唸りますよね。

    ―角野さんの中で「本質的かどうか」がとても重要?

    そうですね。現在、大学で学生が教員免許を取るのに必要な「生徒指導」を学ぶ授業のお手伝いもさせてもらってるんです。生徒指導って聞くと大概みんな最初に浮かぶのは、ジャージを着た先生が校門に立ってるみたいなイメージ(笑)。ですが、生徒指導の本質はそこじゃない。かと言って、「生徒一人一人の人格や個性を尊重し、実社会で大切な力を育むことですよ」って言葉でただ伝えてもピンとこないじゃないですか。そこでこの授業では「もし自分が担任するクラスでいじめが起きたら?」と仮定して、担任の先生役、いじめる生徒役、いじめられる生徒役などいろんな立場でロールプレーをするんです。すると、「いじめられる生徒はこんな気持ちなのか」と実感したり、「いじめる生徒にも、背景や理由があるんだ」と気づいたりする。そして「本当にいじめる生徒だけに問題があるのか?担任としてどう振る舞うべきなのか?」と気づきや問いが次々に生まれてきます。
    こんな風に学んでいくと、生徒指導に対する学生の捉え方が最終回にはがらっと変わるんですよ。「校則違反を取り締まる」みたいな表面的な捉え方から「その人の叶えたい姿や課題を一緒に考えていく存在になる」とか「生き方に寄り添う」とか。それが本質なんですよね。私としてはキャリア教育に対しても同じで、「キャリア教育とは○○です」という学びの形ではなくて、「あ、こういうことか」と体感してもらうのを大事にして、自分の中に軸のようなものを身につけてもらえたらいいなと思いながらいつも取り組んでいます。

    ―なるほど。「学びの本質」を大事にされているんですね。お話ありがとうございました。

    聞き手:JAE広報・増永

    アーカイブ

    ページトップへ